それは突然の知らせだった。2021年10月13日に頭脳警察のオフィシャルホームページ、並びに10月14日、PANTAのFacebookのタイムラインに「PANTA 体調不良による療養と公演中止・延期のお知らせ」が掲載された。10月1日から12月20日までに予定されていたライブやイベントなど、すべてが白紙となった。緊急事態宣言が解除された矢先の出来事である。PANTAによると、基礎疾患として抱えていた肺疾患のため長期療養となるらしい。この状況下にあってもやりくりしながら音を絶やすことなく活動を続けていただけに、残念でならない。
11月1日 夕刊フジ・ロック『頭脳警察xシーナ&ザ・ロケッツ』、11月27日『頭腦警察シークレットライブ』など、予定されていたライブやイベントはすべて中止、もしくは延期になってしまった(その後、休養期間は2022年3月まで延長され、2021年12月26日に予定していた『UNTIX’mas2021』、2022年2月6日に予定していた『生誕祭2022』の中止がアナウンスされた)。まさに青天の霹靂、PANTAに限って、そんなことはないだろうと思っていたが、彼も人の子、決して不死身ではない。いまは一日も早い回復、並びに復帰を待つしかないだろう。
本人不在ではあるが、彼が関わった作品がDVD『頭腦警察 7 コンプリート BRAINPOLICE UNION』(2021年12月1日発売)、PANTAとおおくぼけいによるアコースティックユニット「PANTA et KeiOkubo」のライブアルバム『PANTA et KeiOkubo』(同じく2021年12月1日発売)と、続々とリリースされている。本来であれば、彼が陣頭指揮を取って、いろいろ講釈を垂れるところかもしれないが、留守を預かる(!?)私達がその任を負うしかない。
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実はDVD『頭腦警察 7 コンプリート BRAINPOLICE UNION』の収録現場(2020年11 月30日、東京・渋谷「duo MUSIC EXCHANGE」で開催された『夕刊フジ・ロック「頭脳警察7」コンプリート with BRAINPOLICE UNION』)に立ち合い、その模様をリポートしている。それを一部引用しながら同作を紹介する。
いまから30年前、1990年11月21日に『頭脳警察7』がリリースされた。頭脳警察は1990年6月15日に15年ぶりに復活。そして嵐のように日本ロック・シーンを駆け抜け、1991年2月27日に“自爆”した。1990年から1991年まで、1年間の期間限定で復活した頭脳警察の嚆矢となるアルバムが頭脳警察の7枚目のアルバム『頭脳警察7』だ。PANTAとTOSHIがマルコシアス・バンプの秋間経夫(G)や佐藤研二(B)、ザ・グルーヴァーズの藤井一彦(G)、下山アキラ(B)、元The ピーズの後藤升宏(Dr)、PANTA&HAL後のPANTAのライブやレコーディングを支えた中山務(Kb)など、年齢差は約10歳から15歳という下の世代とともに作り上げた起死回生の復活作だ。
2020年11 月30日(月)、東京・渋谷「duo MUSIC EXCHANGE」で開催された『夕刊フジ・ロック「頭脳警察7」コンプリート with BRAINPOLICE UNION』。夕刊フジが主催する“大人向けのロック・フェス”である「夕刊フジ・ロック」へのライブ出演は2019年11月25日(月)に同じく「duo MUSIC EXCHANGE」で開催された「夕刊フジ・ロックPLUS2頭脳警察『Right Left the Light~ど真ん中から叫んでやる』 頭脳警察50周年3rd」以来になる。夕刊フジと頭脳警察、相性がいいのか、悪いのかわからないが、現在の流行りには目もくれず、拘りの人選と意外な企画で、イベントを開催してくれる。現在は夕刊フジ紙上で、PANTAとミッキー吉野が日本のロック史を語り合う対談「JAPANESE ROCK ANATOMY解剖学」が連載されている。
このところ、感染者が激減し、緊急事態宣言も解除されるなど、収束も見えつつあったが、この12月に日本でも新たな変異株「オミクロン株」の感染者が発覚。それは急速に拡大する恐れもあり、“第6波”も懸念される。
同ライブが行われた2020年11月は収束など、まだ、先のこと、ゴールさえ見えていなかった。時はあたかも“第3波”が来襲、感染者が急増し、医療事情も逼迫していたのだ。そんな中、同ライブは入場者数限定による会場観覧と配信での開催になった。会場観覧に際しては定員500人の会場だが、ソーシャルディスタンスを尊守。動員を150名ほどに限定。体温測定、消毒、空気の入れ替えなども徹底的に行うという“条件”で開催された。
会場での観覧には受付で検温、手指の消毒をするだけでなく、靴底も消毒。そして会場に入っても巨大な機械から霧のようなものが噴霧され、ステージや客席に降り注いでいた。何か、近未来的な風景である。それは空間を除菌、洗浄する液体を噴霧する機械だそうだ。会場のスクリーンには頭脳警による映像が流れる。その中で、PANTAは“何をしても正解、何をしても不正解、ならばいまできるだけのことをやっていく”と語っている。
客席には消毒するためのポケットサイズの除菌消臭スプレーがフライヤーとともに置かれていた。高齢者や既往症を持つものが多いであろう会場の観客にとって、心強い(か、わからないが)“配慮”(心配り)ではないだろうか。
この日は“with BRAINPOLICE UNION”とあるように頭脳警察だけでなく、宮田岳&樋口素之助、Fairy Brenda、おおくぼけいと建築――と、頭脳警察の“組合員”が各々のバンドを率いて出演する。
宮田岳&樋口素之助は、この日のために組まれた即席のユニットながら宮田がベースをギターに持ち替え、樋口のドラムスとのデュオで、グランジな音を聞かせる。その破壊力はとても2人組とは思えない。頭脳警察の心臓部を担うだけはあるのだ。
続く、FAIRY BRENDAは澤竜次(G、Vo)、西山達朗(B)、大谷ペン(Ds)というロック・トリオ。澤と宮田の出身バンドである黒猫チェルシーを彷彿させつつもラウドで無骨な音塊は時代に合わせ、アップデートされている。
アーバンギャルドのおおくぼけいが率いるおおくぼけいと建築はサックスやフルート、マリンバ、コーラスを含む、大所帯のバンドで、建築の名の通り、とても重層的で構築的な音作りがされている。フランク・ザッパ&ザ・マザーズ・オブ・インヴェンションの1975年の名盤『One Size Fits All』を思い出す。頭脳警察の命名の由来はザッパの「Who Are The Brain Police?」だから頭脳警察とザッパが合わない訳はない。超絶技巧と複雑怪奇な音楽性、叙情と煽情が同居するおおくぼけいと建築を聞くと、50周年版の頭脳警察に彼がいることの必然性を改めて感じさせるのだ。
各バンド、20分ほどの演奏ながら、思う存分にその魅力と実力を見せつけたといっていいだろう。50周年版頭脳警察のメンバーには1969年のデビュー時は当然として、1990年の再結成時にも生まれていなかったものもいる。しかし、いまの頭脳警察は俺達が支えている――そんな気概と気迫が籠るステージだった。
PANTAとTOSHIが登場し、『頭脳警察7』のオープニング・ナンバー「腐った卵」がPANTAがヴォーカルとギター、TOSHIのドラムで披露される。同曲を歌い終えると、宮田岳、樋口素之助、澤竜次、おおくぼけいが演奏に加わる。「Blood Blood Blood」が放たれた。その音の奔流に巻き込まれた時、頭脳警察というものがとてつもなく大きな存在であるという事実がいい意味で聞くものに重くのしかかる。その音に蹂躙されるという感じだろうか。その豪胆な佇まいは、頭脳警察が寄り合い所帯ではなく、各バンドを強引にM&Aをして、“頭脳警察ホールディングス”として巨大な企業に生まれ変わったかのようだ。頭脳警察としては“UNION”が相応しいのかもしれないが、その獰猛さは“HOLDINGS”そのもの。やはり、頭脳警察は怪物である。1990年の『頭脳警察7』は2020年の『頭脳警察7』に書き換えられていく。
あとは怒涛の如く、凶暴なナンバーを畳みかける。「扇動」や「Quiet Riot」、「イライラ」……など、30年前の危険な言葉達が現在に躍動した。
過激で煽情的な叫びから一転して、「People」と「月蝕と日蝕の谷間で」という詩情豊かで叙情溢れる祈りにも似た歌を囁く。
そして50周年版頭脳警察に1990年の再結成時にレコーディングへ参加した秋間経夫が加わる。万華鏡のような音の光彩を放つ「6000光年の誘惑」が披露される。同曲をグラマラスに輝かすのは彼のギターしかないだろう。
引き続き、秋間が加わり、『頭脳警察7』のエンディング・ナンバー「万物流転」が演奏される。『頭脳警察7』の核とでもいうべき曲である。同曲は“古代ギリシャの哲学者ヘラクレイトスの言葉「万物は流転する」を、「でも、それは表面のことだけで、本質は何ひとつ変わっちゃいない」とPANTA流に解釈した大作である”(今拓海・奈良裕明著『頭脳警察1990‐1991』<宝島社>より)という。ロック界最高の詩人の最高の詩であるが、「万物流転」があったからこそ、“50周年”があったのではないだろうか。PANTAは“止まっていると変わらないは違う”と語る。止まらないから頭脳警察は変わらない――と、まるで“言葉遊び”のようだが、それが腑に落ちるまでにはそう時間がかからなかった。
実はロック界最高の詩人の最高の詩であるが同曲にはレコーディングされなかった歌詞があった。収録時間の関係で割愛されたらしいが、PANTAはその歌詞の存在を忘れていたそうだ。それを思い出せたのは秋間だった。同曲のデモテープにはレコーディングされなかった歌詞が入っていた。ステージでも語られるが、秋間はそのデモテープを持っていていたが、PANTAの手元にはそのデモテープがなく、歌詞そのものも忘却の彼方だった。ライブをする際にその“幻の歌詞”のことをPANTAに伝えたところ、この日は“完全版”が披露されることになった。“侵略者が朝になれば 玉座から見下ろして 宝玉散りばめられた貢物 値踏みする 追われ続けた栄華が辿り着く岩山の洞窟で見てしまった 神々の策略を”という歌詞が加えられた。また、この日は“セラミックの刃”が橋本治の著書「草彅の剣」にインスパイアされ、“草彅の刃”に変えられている。“30年目の真実”だ。”
「万物流転」を歌え終えると、彼らはステージを後にする。アンコールを求める大きな拍手とマスク超しの歓声はやまない。彼らは2019年にリリースした頭脳警察の50周年記念アルバム『乱破』へ参加した尺八奏者、石垣秀基を伴いステージに帰ってくる。彼の尺八をフィーチャーした「乱破者」が演奏され、同曲に続き、間髪入れず、「絶景かな」が披露される。同曲は50周年を迎えた頭脳警察の足跡を追ったドキュメンタリー映画『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』のエンドロールに流すため、頭脳警察として新たに作ったものだ。頭脳警察版「What A Wonderful World」とでもいうべき曲だが、そこには“同じことを繰り返してばかりの世界”という歌詞があった。そのフレーズで、すべてが繋がった。そして、同じく『乱破』に参加したサックス奏者、ASUKA、さらにこの日の出演者全員を呼び出し、「歴史から飛びだせ」(1972年にリリースされた『頭脳警察3』収録)が始まる。ステージは過密状態、その上での“騒乱状態”だが、1990年の「万物流転」を中継点にして、1969年と2020年が一本の矢で射抜かれる。
1969年から2020年へ――その瞬間をDVD『頭腦警察 7 コンプリート BRAINPOLICE UNION』で改めて確認してもらいたい。同作は50周年を迎えた頭脳警察の足跡を追ったドキュメンタリー映画『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』を監督した末永賢が編集を手掛けている。『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』とともに50年目の頭脳警察を記録する貴重なドキュメンタリーだ。
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そしてDVD『頭腦警察 7 コンプリート BRAINPOLICE UNION』と同じ日にリリースされたPANTAとおおくぼけいによるアコースティックユニット「PANTA et KeiOkubo」のアルバム『PANTA et KeiOkubo』。2021年5月23日渋谷「Lamama」で行われたライブを収録したアルバムである。“PANTA et KeiOkubo”というユニット名はおおくぼも参加する“Panta et Laigle Noir” (PANTA&黒い鷲)の流れで命名されたらしい。
“Panta et Laigle Noir”はPANTA (Vo、G)、おおくぼけい (Kb)、澤竜次(G)、宮田岳(B)、樋口素之助 (Dr)、竹内理恵(Sax)というラインナップで、2020年8月2日(日)、東京・渋谷「Lamama」で開催したPANTAにとっては初の無観客配信ライブ『 PANTAソロライブ PANTA&黒い鷲「YHに捧ぐ」』を行っている。当初は山崎ハコと安田裕美(彼は日本を代表するギタリスト、作曲家、編曲家で、実妻はシンガー・ソング・ライター、山崎ハコ。ライブの直前、 2020年7月6日に逝去された)も出演予定だったが、突然のことで叶わず、タイトルに「YHに捧ぐとが付けられた。同ライブではシルヴィ・バルタン、バルバラ、ホセ・フェリシアーノの名曲から、PANTAがルースターズ、沢田研二、チェッカーズ、杏里へ提供した楽曲、デビッド・ボウイやドアーズもカヴァーした、ブレヒトが作詞し、ヴァイルが作曲した「アラバマ・ソング」、キューバのシンガー・ソング・ライター、カルロス・プエブラがチェ・ゲバラに捧げた「Hasta Siempre – Comandante Che Guevara」、リーダーが日本のバラエティ番組収録中の不慮の事故で亡くなった香港のロック・バンド、BEYONDの名曲で、いまも自由を求める抗議デモで歌われるという「海闊天空」、そして頭脳警察の「絶景かな」、「さようなら世界夫人よ」まで、頭脳警察のナンバーを除けば、あまり披露してこなかった楽曲をカヴァーした。
前述通り、現在、夕刊フジでミッキー吉野との対談が連載中だが、度々、シャンソンやフレンチポップスなどの話題が出てくる。武闘派のPANTAにしては意外なルーツかもしれないが、そんな素養や素地があるのがPANTAだ。50周年記念仕様の頭脳警察とメンバーはほぼ同じながら、その歌と演奏は趣を異にする。歌に重きが置かれ、演奏そのものも歌と対峙する戦闘的なものではなく、むしろ寄り添い、包み込むようなものになっている。音楽的にもPANTA et KeiOkuboは、その延長線上にあるものだろう。「ステファンの6つ子」や「PAS DE DEUX」、「裸にされた街」、「さようなら世界夫人よ」など、PANTA、頭脳警察の珠玉のバラードから橋本治の死を知り思わず書いたという「冬の七夕」、そしておおくぼけいの名曲「カナリア」まで、新たなスウィート路線とでもいうべき歌が数多、収録されている。PANTAとおおくぼけいに竹内理恵(Sax)、冨田麻衣子(Perc)、蔵田みどり(Cho)が客演し、華を添えている。
PANTA et KeiOkubo は2021年8月29日(日)、青森県三沢市寺山修司記念館で行われる『Welcome To The GATE 寺山修司 2021』にROLLYなどとともに出演が予定されていた。同イベントはPANTAの健康上の理由とは関係なく、青森県医師会から三沢市を通じてイベント中止の通達があり、昨今の青森県の感染状況を踏まえ、青森県で定めているガイドラインの中に記載されている段階をステージ4「イベント中止」に引き上げたため、当該イベントの開催は収容人数の制限に関わらず中止せざるを得ないことになったという。寺山修司とは縁の深いPANTAだけに同イベントで、彼らがどんな歌を歌い、どんな詩を朗読するか、興味深かった。中止は残念でならない。
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いまは2020年と2021年の“置き土産”とでもいうべき2作品で彼らの確固たる足跡を再確認しつつ、偉大なる復活を待つしかない。明けない夜はない、止まない雨はないという“J-POP”のような祈りの言葉を紡ぐしかないだろう。2022年、頭脳警察ホールディングス、次のビッグディールはいつになるのだろうか。ロック界の景気浮揚は彼らに任せたといいたいところだが、気まぐれな彼らのこと、ふざけるんじゃねえよ、と言われてしまいそうだ。しかし、結成50周年を過ぎてもいまだにワクワク、ドキドキ、ハラハラさせるなんて、やはり怪物である。どんな刃でも敵わないだろう。PANTAの回復、並びに頭脳警察の復活を心から祈る。
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