来年、2019年に頭脳警察が結成50周年を迎える。1969年、PANTAとTOSHIが19歳の時に出会い、それから50年。ご存知のように解散、再結成、解散、再々結成などを繰り返したが、現時点で、頭脳警察は“歴史から飛びだせ”ではないが、伝説に埋没することなく、現存している。そのことだけでも驚くだろう。
日本語のロックを語るとき、某バンドのみを持ち上げるのは“片手落ち”というものだ。頭脳警察がいることを、忘れてもらっては困る。勿論、そんなことを証明するために彼らがいまも活動を続けているわけではないが、ここにきて頭脳警察の存在がとてつもなく大きくなっているのを感じる。改めて再評価などはまだるっこしいが、PANTAとTOSHIがいまも最前線にいることには意味がある。
50周年に向け、現在、様々なプロジェクトが進行しているという。その前に落とし前(!?)を付けることも忘れていない。本2018年1月13日、東京・渋谷「マウントレーニアホール」で開催された『第七回 真夜中のヘヴィロック・パーティー・プレゼンツ』での頭脳警察とはちみつぱいとの共演。“慶応三田祭事件”から46年の歴史的共演(!?)、そして、同年2月1日、渋谷「クラブクアトロ」で開催された『生誕71年エンケン祭り~追悼・遠藤賢司』でのPANTAと細野晴臣と鈴木茂との共演。佐野史郎がインスタに同日の楽屋でのPANTAと細野晴臣、鈴木茂、鈴木慶一の奇跡の4ショットを上げている。歴史的和解(!?)にはかくも長き時間がかかるもの。その辺の経緯は過去にもブログで書いている。探してほしい。
と、枕が長くなったが、その50周年へのカウントダウンともいうべきライブが7月17日(火)、東京・二子玉川の「GEMINI Theater」で開催された。同所は新橋にあったダディ竹千代が経営するライブハウス「ZZ」の移転先、Charと共同経営する新店舗である。東急田園都市線二子玉川駅から徒歩5分、玉川高島屋S・C西館近くという、頭脳警察にはまったく相応しくない場所だが、同じく同所にまったく相応しくない年季者のロック・ファンが詰めかける。80名限定ライブだが、空席などなく、立ち見も出ている。開演前から古豪の熱気が会場に充満する。怒声も飛び交う。かくも強き熱狂は頭脳警察ならではだろう。
第1部は、はちみつぱいとのライブでも共演した京都の轟音バンド、騒音寺のTAMU(G)、こーへい(B)とのコラボレーションでのバンド・セット、2部はPANTAとTOSHIによるアコースティックセット(NABEなど、騒音寺の途中加入あり)という構成。頭脳警察の2つの形態を楽しめるというラインナップである。
騒音寺と組むことに頭脳警察の強い意志や意図を感じる。演奏技術だけを取れば相応しいミュージシャンはたくさんいるはずだが、バンドでなければ出せないグルーブやテンションを騒音寺は頭脳警察に与えている。1989年の期間限定復活の際もマルコシアス・バンプの佐藤研二(B)やザ・グルーヴァーズ藤井一彦(G)、Theピーズの後藤マスヒロ(Dr)など、バンドマンのサポートを得て、頭脳警察を再結成させたが、それを彷彿とさせるのだ。バンドとしての一体感を扇動し、激情を加味する。最新型の頭脳警察に相応しいバンド・マジックが生まれる。「銃をとれ!」や「ふざけるんじゃねえよ」など、ポリティカルでラジカルという頭脳警察のパブリックイメージをそのままを体現する代表曲はロック史に残る名曲にも関わらず、懐古や郷愁などはなく、まさに現在進行形である、その色褪せなさはなんだろうか。古の政治の季節の遺産などではない、時代を軽々と飛び超え、現在にいきなり場外乱闘を挑んでくるかのようのだ。
一転、第2部ではポエトリカルでリリカルという頭脳警察の別の顔も見せる。「さようなら世界夫人よ」や「万物流転」など、詩情豊かで叙情的な世界を朗々と歌い上げ、「いとこの結婚式」では滑稽と諧謔を含ませる。寺山修司の詞に曲をつけ、2006年にマキシシングルとしてリリースされた「時代はサーカスの象に乗って」、『頭脳警察セカンド』制作時にレコーディングされながらもお蔵入りになった未発表曲「だからオレは笑ってる」なども演奏された。
頭脳警察のデビューから最初の解散まで、そして1989年の期間限定の再結成、さらに2001年からの再々結成と、頭脳警察のすべての時代、活動を網羅するように選曲され、それらが違和感なく並ぶ。ある意味、年代やメンバーは変われど、PANTAとTOSHIがいる限り、それは頭脳警察である――そう主張しているかのようでもある。まさに“ベスト・オブ・頭脳警察”。敢えてショーケースとして、このライブに披露したのではないだろうか。50周年のカウントダウンの始まりを宣誓するかのようでもある。
この9月19日に頭脳警察は2枚組のライブ・アルバム『BRAIN POLICE RELAY POINT 2018』をテイチクエンタテインメントよりリリースする。
Disc‐1は“赤い煉瓦の上から”として、2018年5月19日、横浜 赤レンガ倉庫1号館3Fホールでのライブを収録。同ライブは『頭脳警察セカンド』コンプリートLIVE。同作のジャケットが撮影された横浜赤レンガ倉庫で、PANTA (Vo & G)、 TOSHI (Per)に、菊池琢己 (G) 、JIGEN (B)、小柳“cherry”昌法(Dr)という2001年の再々結成時のメンバーを加え、近田春夫(Kb)をゲストに『頭脳警察セカンド』を完全再現。そして、Disc-2は“焼けた煉瓦の下から”として、2018年1月13日、渋谷 マウントレーニアホールでのライブを収録。同ライブは前述通り、騒音寺を加え、騒音警察で、はちみつぱいと共演した『第七回 真夜中のヘヴィロック・パーティー・プレゼンツ』のライブである。
2018年時点での最新型の頭脳警察の2形態を体感できる作品となっている。ただし、“中継点”、“中間点”であるという。となると、ゴールとでもいうべき、2019年の50周年版頭脳警察がどういうラインナップで、どんな新作を出すのかも興味深い。このところ、PANTAは“他流試合”にも積極的で精力的である。8月、9月にはROLLYや白井良明との共演、また、11月にはビルボードライブで鈴木慶一のディレクションで、『PANTA & HAL. EXTENDED』を開催。名盤『マラッカ』と『1980X』 の完全再現ライブを行う。
2019年、頭脳警察がどんな形態で、我々の前に姿を現すか、楽しみでならない。2009年、再々結成時の新作にして、40周年記念盤に“俺たちに明日はない”とタイトルをつけたが、まさか(と、本人が思っているかわからないが)、その“明日”に続きがあるなんて。サバイバルはするものだ。彼らと同時代を生きる古豪だけではなく、最近のJポップは歯ごたえがないとお嘆きのお若い方にも聞いていただきたい。来年2019年2月にはともに69歳(PANTAは1950年2月5日生まれ、TOSHIは1950年2月2日生まれ)になり、“アラ古希”となる二人。こんな70歳、ちょっと、いない――。
「Let’s Go Steady――Jポップス黄金時代 !」より転載