『和久井光司の言わずに死ねるかッ!』はクラブチッタ川崎の2Fにあるバー、アティック(CLUB CITT’A’TTIC)で2014年10月から毎月開催されているトーク&ライヴのイヴェント。これまでホストの和久井が小室等、加奈崎芳太郎、生田敬太郎といったヴェテラン勢を始め、久住昌之、石川浩司、モモナシ等多彩なゲストを迎えており、PANTAも記念すべきvol.1とvol.25に出演している。今回はカウンターに和久井家特製のおでん、モツ煮、年越し蕎麦が用意されて客席は宴会場状態、タイトル通り忘年会+ライヴという趣向となっていた。
開場が遅れ、定刻を大分過ぎてから和久井クァルテット+菊池琢己がステージに上り、1曲目は「娑婆にホトケ」。このアティックというスペースは天井が高く、どうしても音がグルグル回ってしまって風呂屋みたいになってしまうのだが、このバンドは細かなニュアンスは伝わらないだろうからと言わんばかりにこの日はラフでラウドなアプローチ。雑ということではなく、小技を効かせながらも打ち出し方がはっきりしているので多少聴き取りづらくても問題はない。菊池琢己もツボを押さえつつ伸びやかにギターソロを弾きまくる。
続いてゲストの小林啓子と和久井のデュオ。谷川俊太郎/小室等の「あげます」で見せた、詞の奥に見え隠れする世界の重厚さや複雑さを表現した歌声は流石。歌詞を表面的になぞると無垢な少女の台詞のようなのだが、実は女の覚悟を滲ませた内容であるだけに、例えばこのイヴェントにも出演したまだ若い村上沙由里がこの曲を歌うときとは一味も二味も違ってくるのだ。やはり小室のレパートリーであの松岡正剛作「比叡おろし」にしても情念というべきか、業の深さが唯一無二。年齢のことを書くと失礼かも知れないが、あの御歳でこの表現力と美貌とは、小林啓子恐るべし。更にこの春には高橋幸宏、小原礼、鈴木茂らをバンドに迎えたライヴも予定されているという。
そして窪田晴男がやんごとなき事情で欠席したshiro-1、宮原芽映+丹波博幸。ニール・ヤング「Harvest Moon」風のリフが織り込まれた「I’ll See You In My Dreams」、「500マイル」のメロディを拝借したような「あちこたねえ」と、デュオでは良質なポップスという風情だったのが、和久井クァルテットと演奏すると途端にロックな佇まいになるところが面白い。宮原芽映は作詞家としても活躍しているし、PANTAが「スプーンみたい」でデュエットしていることをご存知の方も多いだろう。丹波博幸は長くジョー山中と行動を共にしていたギタリストである。このセットで第1部が終了。
第2部は再び和久井クァルテット+菊池琢己で始まり、客席を巻き込んで踊り歌った「漕げよマイケル、あと500マイル」で盛り上がった後、いよいよPANTAが呼び込まれた。菊池琢己がステージに残り、まずは響でカヴァーを3曲。ストーンズの「As Tears Go By」に「メキシコ式離婚」「Will You Still Love Me Tomorrow」と最近のレパートリーばかりだが、長年歌い続けているような深さを備えてきた。そして和久井クァルテットが合流し、「つれなのふりや」から「マラッカ」へと雪崩れ込む。伴慶充の豪快なドラムとの相性がいい。PANTAもギターを下ろし、ハンドマイクでアクションを交えて叫び歌う。そしてこのセットの最後は丹波博幸も加わり、PANTAと和久井で歌い分けた「マーラーズ・パーラー」。
そのまま出演者全員がステージに上り、和久井光司が昨年アナログ・シングルとしてリリースした「街角で”コヨーテ”を聴いた」で忘年会も大団円、とはならず、和久井ひとりが残って遠藤賢司の「夢よ叫べ」。この世界はエンケンにしか歌えないと誰もが思っていたであろう曲だが、ディランのカヴァーを聴くと新たな発見がある、といった感じで歌詞の世界がストレートに伝わってきた。長丁場となったのはいつものことだが、この日ばかりは忘年会が盛り上がったから、ということにしておこう。
2017年12月30日 CLUB CITT’A’TTIC
和久井光司の言わずに死ねるかッ!vol.38
忘年会ライヴ2017
出演 :
和久井光司クァルテット(安倍OHJI / 藤原マヒト / 伴 慶充 / KW)+菊池琢己
shiro-1(宮原芽映 / 丹波博幸)
スペシャルゲスト : PANTA / 小林啓子
【第1部】
<和久井クァルテット+菊池琢己>
<小林啓子+和久井光司>
<宮原芽映+丹波博幸>
<宮原芽映+丹波博幸+和久井クァルテット>
【第2部】
<和久井クァルテット+菊池琢己>
<PANTA+菊池琢己>
・As Tears Go By
・メキシコ式離婚
・Will You Still Love Me Tomorrow
<PANTA+菊池琢己+和久井クァルテット>
・つれなのふりや
・マラッカ
・マーラーズ・パーラー(+丹波博幸)
<和久井クァルテット+ゲスト全員>
・街角で「コヨーテ」を聴いた
【Encore】
<和久井光司ソロ>