慶応三田祭事件と呼ばれる頭脳警察のステージ・ジャックについて、PANTAは自身のfacebookで以下のように記している。長くなるが頭脳警察サイドの「証言」として引用する。
“その日、時間の押した2つの学園祭をこなし次の慶応三田祭に遅れて着いた頭脳警察、主催の風都市から頭脳警察のやる時間はないよと言われ、では仕方ないと帰ろうとすると、トシがこのまま帰るのかよと言う、それもそうだな、やるかと踵を返すと、まわりを囲んでいた黒へル軍団があっという間に校内へ散っていった。ステージでは、はちみつぱいが演奏し、その後ろでは、はっぴいえんどが出番を待ちながらストレッチしているのを見ながら、下手ステージサイドの校舎で腕組みして立ち、はちみつぱいの終わるのを無言で待つ頭脳警察、そして、はちみつぱいの演奏が終わるなりステージに上がり、すばやく黒へル軍団がステージを取り囲み、ほぼ一時間強演奏し続けたのだった…♪”
1971年11月6日、慶應義塾大学三田校舎中庭特設ステージで行われた三田祭前夜祭での一幕である。ちなみに告知されていた出演者は以下の通り。
乱魔堂、友部正人、斎藤哲夫、裸のラリーズ、頭脳警察、はっぴいえんど、遠藤賢司、あがた森魚&蜂蜜麺麭、吉田拓郎、豊田ゆうぞう (チラシ掲載順、原文ママ)
頭脳警察がステージを降りた後、はっぴいえんどは1曲だけ演奏してその場を去ったという。この日から46年振りに再び頭脳警察とはちみつぱいが相見えることになったのである。
当時の野外ステージとはうって変わり、元々は映画館だった名残か、座り心地の良い椅子が観客で埋め尽くされ、スクリーンに「蜂蜜ぱい」とゲバ文字が映し出される中、大所帯となったはちみつぱいが姿を現わした。はちみつぱいは2015年末に行われた「鈴木慶一ミュージシャン生活45周年記念ライブ」に歴代メンバーと故かしぶち哲郎の息子、橿渕太久磨というラインナップで復活し、その後夏秋文尚を迎えたツインドラム体制でライヴやあがた森魚とのレコーディングを重ねている。この日は残念ながら橿渕太久磨は出演せず、8人編成で演奏が始まった。まずインプロビゼーションからスタート、夏秋のドラムが力強くビートを刻み、どこか浮遊感の漂った2年前と比べてアンサンブルが纏まってきて、拡散するよりも収斂していくような印象が強い。途中、鈴木慶一がエレキからアコギに持ち替え、本多信介の合図でテンポアップするが、再び慶一がエレキに戻したところで和田博巳のベースラインが「こうもりが飛ぶ頃」へと導いていく。慶一、駒沢裕城、武川雅寛、渡辺勝の4人が歌い、さらに耳があちらこちらに持っていかれるよう。
あがた森魚&はちみつぱいのアルバム『べいびぃろん(BABY-LON)』に収録された「虫のわるつ」を渡辺勝が歌った後は、1973年作『センチメンタル通り』からのナンバーが続く。「塀の上で」の冒頭で渡辺勝がおもちゃのガラガラを振っている姿が風貌と相まって妙におかしいのだが、音に違和感がないのが不思議だ。また、慶一のMCで1988年にはちみつぱいが再集結し、解散コンサートを行うに当たって頭脳警察とのツーマンを希望していたということが明かされる。当時はまだ頭脳警察も再結成前で共演とは成らなかったのだが、そこから30年越しに実現したということも合わせると、今回はやはり歴史的な「事件」だと言えよう。最後は再び渡辺勝がヴォーカルをとった「アイ・ラヴ・ユー」と「ぼくの倖せ」が続けて演奏され、このセット終了。
長いインターバルを挟んで今度はスクリーンに「頭脳警察」のゲバ文字が浮かぶ中、PANTA、TOSHIと騒音寺からNABE、TAMUが登場。
TOSHIがドラムセットに座り、NABEとTAMUがエレキギターを構える。はちみつぱいのインプロに対抗するかのように強烈なドラムとノイジーなギターが重なる。一旦落ち着いたところでPANTAが寺山修司「アメリカよ」を朗読する中、TOSHIが本領発揮とばかりにドラムを縦横無尽に叩きまくる。近年は俳優業や朗読など活動の幅を広げているPANTAと、以前から舞踏や演劇、朗読等々とのさまざまなコラボレーションが多いTOSHIが最近の成果を披露し合っているような素晴らしさ。ふたりとも感情を込め過ぎることなく、ふくよかに物語を進めていく。「アメリカよ」が終わるとPANTAがゼマイティスのエレアコで「時代はサーカスの象にのって」のイントロを奏で、TOSHIはパーカッションのセットへ移る。NABEのスライドも効いているが、ここでのTOSHIも歌の世界に寄り添い、コンガやボンゴを時に優しく撫でるように鳴らしていく。そして曲が終わる頃にはすっかり頭脳警察がステージをジャックしてしまっていたのである。
NABEがステージを去り、騒音寺のリズム隊、KOHEY、AYATAを加えてバンドセットが始まる。「風の旅団」ではまだフロントのふたりと噛み合っていなかったが、PANTAのギターから始まった「銃をとれ!」でのベースとドラムは『セカンド』の空気を再現し、徐々に会場の温度を上げていく。
「歴史から飛び出せ」でのTOSHIのタンバリン、再び登場したNABEのハープは曲に新たな一面をもたらしていたが、他の曲も含めて騒音寺のプレイが一本調子に聞こえてしまったのはやや残念なところ。しかしながらそこを補って余りあるのがもうすぐ68歳になるふたりで、説得力が増したPANTAのヴォーカルと曲にさまざまな表情をつけていく変幻自在のTOSHIのプレイに頭脳警察50周年に向けての期待は高まるばかり。「悪たれ小僧」でもオリジナルのフレーズが織り込まれ、バディ・ホリー~ローリング・ストーンズの「Not Fade Away」を挟み込んだPANTAが手拍子を続ける客席を煽ると「ベロベロバー!」の大合唱。
騒音寺が退場し、三田祭と同じ二人編成となって「さようなら世界夫人よ」と「万物流転」。PANTAとTOSHIの描く世界のなんと素晴らしいことか。綻びがないわけではないが、リズムの揺れ方、緩急のつけ方、そして中空に放り投げられた芳醇な音の礫。PANTAの全てを包み込むような声に、TOSHIも歌い、叩くことで彩りを添えていく。すっかりロマンティシズムの世界に塗りつくされたステージは再び(三度目、か)頭脳警察にジャックされたのである。
アンコールに突入すると騒音寺に敬意を表したのか、祇園祭の出囃子に乗ってPANTAと鈴木慶一がステージに登場し、慶応三田祭事件についての証言を始める。総括が続けられる中、徐々に全ての出演者が顔を揃え、慶一が「騒音蜂蜜警察です!」と紹介すると、「はいからはくち」が始まる。そう、はっぴいえんどが三田祭で演奏した、そのたった1曲をはちみつぱいと頭脳警察が受け継いでいるのである。しかも慶一のアレンジにより「コミック雑誌なんかいらない」がマッシュアップされ、PANTAと歌い分けていく。途中のソロ回しでは渡辺勝がまたもやリコーダーという飛び道具を出し、混沌さに拍車をかけていった。なおこのアンコールの模様を鈴木慶一はTwitterでこう振り返っている。
”はちみつぱい、頭脳警察ライヴ一昨日終了。感慨深いぞ。アンコール出囃子は「京都シティはいからブギー」。アンコール曲「絶対死なないはいから俺にはコミック雑誌なんていらないはくち」演奏、騒音警察ぱいでした。観に来てくれた皆さんありがとうございました。k1“
演奏が終わると全員が一列に並び、慶一の「写真撮っていいよ!」の言葉に合わせて会場に流されたのは遠藤賢司の「歓喜の歌」。そう、この日はエンケン71歳の誕生日だったのである。俯く者、天を仰ぐ者、ステージ上で様々な表情が交錯する中、武川がヴァイオリンを弾いている。慶一が「ハッピー・バースデイ!」と叫び、曲が終わった。このとき、ようやく三田祭事件は総括されたのである。600
2018年1月13日 Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
第七回 真夜中のヘヴィロック・パーティー・プレゼンツ
出演:はちみつぱい、頭脳警察
・はちみつぱい(岡田徹 / 駒沢裕城 / 鈴木慶一 / 武川雅寛 / 夏秋文尚 / 本多信介 / 渡辺勝 / 和田博巳)
・頭脳警察(PANTA / TOSHI + NABE / TAMU / KOHEY / AYATA from 騒音寺)
<はちみつぱい>
こうもりの飛ぶ頃
虫のわるつ
土手の向こうに
センチメンタル通り
堀の上で
月夜のドライヴ
アイ・ラヴ・ユー
ぼくの倖せ
<頭脳警察>
(PANTA, TOSHI + NABE, TAMU)
アメリカよ
~時代はサーカスの象にのって
(PANTA, TOSHI + TAMU, KOHEI, AYATA)
風の旅団
銃をとれ!
少年は南へ
(PANTA, TOSHI + NABE, TAMU, KOHEI, AYATA)
歴史から飛び出せ
サラヴレッド
悪たれ小僧
(PANTA, TOSHI)
さようなら世界夫人よ
万物流転
<All Cast>
はいから雑誌なんかはくち(はいからはくち + コミック雑誌なんかいらない)
<Closing : 歓喜の歌(遠藤賢司)>
写真 シギー吉田