子供の頃の記憶の片隅にあるエピソードを、断片的に書き出してみようと思う。
以前、親父達に連れられてアメリカ人の連中と、よくピクニックのようなものに連れて行かれて、そこでひとり野球をやって遊んでいたということは書いたが、その頃、西武園やユネスコ村へよく遊びに連れて行ってもらったことがある。
いまの西武球場駅は、その昔、「ユネスコ村」という名の駅?であり、そこからユネスコ村へ行くのに、カバのバスと象のバスがあって、これは両方ともオープンデッキで2、30人乗れるようになっており、これに乗りたいと言って、駅へ向かおうとしている親を泣いて困らせたことがある。
その近辺はいまはトトロの森として有名になっているが、ユネスコ村行きのバスが猫バスの原型ではなかったのかと宮崎監督に聞いてみたい気もある。
そして、そのユネスコ村から西武園へは、お伽電車というとっても可愛い電車に乗って行けるようになっているのだが、ある時、何度も乗ったことがあるそのお伽電車の停車前に、ホームへ飛び降りたことがあり、飛び降りたのはいいが、勢いがついているもので、前に行こうとする身体を追いかけて足をもつれさせ、そのまんまホームの上をゴロゴロと転がっていったのを鮮明に覚えている。
そこで初めて学校で習う前に、慣性の法則というものを身をもって体験したという天才的ともいうべき少年?であったのだ。
あとから親父の話を聞いてみると、そのまたもっと子供の頃に、前から飛んでくる飛行機を見上げていて、上空を後ろへ飛んでいく飛行機とともに、そのまんま後ろへひっくり返るような大バカ者(天才?)だったらしい。
親父の自転車の後ろによく乗せてもらっていた。
ある日、近所の中学校か何かの運動会に連れていくというので、満面に笑みを浮かべ、颯爽と自転車後部にまたがった。
親父が、さあ行くぞっ!という声をかけてくれたので、嬉しさのあまり思わず「バンザーイッ!」と両手を上にあげた瞬間、自転車がスタート、それと同時に、オレは思い切り後ろへもんどり打って落っことされていた。
ここでも慣性の法則の再確認が出来たということで、なかなかのものである。
狭山湖の親戚の家に夏によく遊びに連れて行かれた。
よくその辺の川で、従兄弟達と遊んでいたものだが、ある日、小さな橋のかかった下がコンクリートで固められている川を上から覗き込んでいるときに、気がついたら、オレはその川のコンクリートの上に大の字になって寝そべっており、両頬を水がチョロチョロと流れている・・・ふと見上げると、慌てた顔をして近所のオジさんが降りてきて、オレを抱えて親戚の家まで運んでくれた。
そう、オレは川の縁から覗き込んでいるうちに、そのまんま落下していったらしい。
顔を血だらけにして腫れ上がらせながら、やっぱりオレの頭は詰まりすぎていて重いのだ、これから気をつけねばと、運動神経の鈍さとか、自分のバカさ加減を棚に上げ、前向きに考える性格はこんな風に形成されていったのであった。
大人になってからも、こんなバカさは相変わらず続いていた。
雨の日にバイクを走らせていたのだが、明治通りと早稲田通りの交差点近くで、急に信号が赤になり(実際はその前に黄色がついているはずだが・・・)、このスピードでは止まれない、さてどうしたものかと頭がマッハで回転しているときに目の前に段ボールが一枚落ちているのが目に入った。
そうだ、あの段ボールの上でブレーキをかけよう!咄嗟の出来事にしては我ながらいいアイデアだと思い、前輪がその段ボールの上に乗った瞬間、思い切り前ブレーキをかけた。
・・・・・・そう、そのままバイクとともに身体もすっ飛ばされていったことは間違いない。やっぱりタイヤのゴムより段ボールのほうが摩擦係数は低いと実感出来た貴重な瞬間であったのだ。
奇跡的な出来事もある。
ある路地を(オレは広い道はゆっくり走るくせに裏道を飛ばす癖がある)スコルピオで走っていると、いきなり左の路地からオバちゃんの運転するスカイラインが飛び出してきた。
オレは思わず、ブレーキングしてバイクを横倒しにすると同時に、シュワッチとばかり、宙を舞い、一回転して、見事に10点満点の着地をやってしまったのだ。
近くの工事現場からは拍手が起こり、苦笑いしながら手をあげていたオレであったのだが、そんなオレを、フンッと鼻で笑うように謝罪の言葉ひとつなく走り去っていったオバちゃん(この場合、クソばばぁと呼びたい!)に腹が立って腹が立って、その日、一日何と気分の悪かったことか・・・。
居眠りでガードレールに激突して車を潰したり、ダンプに追突した後、応急修理して出かけ、その日のうちに初台で大型トレーラーとガードレールに挟まれ、窓から出て来なければならないような事故でまた一台潰し、荻窪で車を横転させたり、大事故はいろいろと体験しているのだが、かすり傷ひとつ負ったことがない。
強いて言えば、前の自分史に書いた左肘のシリンダーの火傷の痕くらいかな・・・・
もうひとつ奇跡的な事故のことを書いてこの回は終わりにしよう。
ある小雨降る夜中、マセラティー・ザガート・スパイダーで帰宅途中に、関越手前の陸橋で、左側を走っていたのだが、陸橋の下り坂で右側を走る大型トレーラーが、頭をセンターのガードレールに突っ込み、当然、後ろのトレーラー部分はジャックナイフ現象で、左を走るオレのほうに迫って来た・・・。
その時はまだ、慌ててはいるのだが、妙に冷静に走っていたのだ。
しかしその直後、今度はその後ろにいた、またまた同じくらいの大型トレーラーが、オレに襲いかかろうとしているトレーラー部分に思い切り追突してきたのであった。
鈍い音をたてて激突されたそのトレーラーのテールランプやらバンパーやらの破片が、スローモーションでオレの車のフロントウインドーに降りかかってくる。
さながら、その時、握っているステアリングは単にゲームのコントローラーと化していて、その破片を右に左にかいくぐり、ボスキャラを倒すまでもなく、陸橋の先の安全地帯へと車を停車することが出来た。
ほんの数秒の出来事であったのであろうが、神とか仏とかいう名を出すのは不本意だったので、とにかく何かにありがとうと心の中で呟いていた。
いまはさほどゲームにはハマっていないが、その時ほど、単なる時間の浪費と思いながらもゲームを嗜んでいたことが無駄ではなかったことを実感したことはない。