渋さ知らズの新春恒例ライヴ。PANTAは2016年にも出演しているが、このときはデヴィッド・ボウイが亡くなった直後のことで、ステージに現れるとMCも無しに「Space Oddity」をワンコーラス弾き語りで歌った後、渋さ知らズとの「まるでランボー」に雪崩れ込んでいったのだった。
今年は開演時間を少し過ぎた頃ステージに不破大輔がふらりと現れ、「考えが変わったのでこの演奏から始めます」と予定外のドラム×3+ベース(ヒゴヒロシ)の強烈なインプロからスタート。ひと段落するとようやく本来は初っ端に出る筈だったPANTAが呼び込まれ、ソロコーナーは前日に訃報が流れたフランス・ギャルの「Bonsoir John-John」を弾き語りから。そして「メール・ド・グラス」「ナハト ムジーク」と『クリスタルナハト』からの曲が続く。O-EASTのフロアを埋めた客が立ちつくしたまま聴き入る中、「ナハト ムジーク」の途中でヴァイオリンともエレクトロともつかない音が聴こえてきたと思ったらPANTAの斜め後ろに石渡明廣が陣取り、ギターを弾き始めていた。後からわかったことだが、これも予定外のことだったそうだ。「七月のムスターファ」に先立つPANTAのMCは早口でまくし立てるようだったが、これがまるで曲のイントロダクションのようで、妙なスピード感を保ったままこのセットが終了。
そして渋さ知らズ大オーケストラのセットに突入していったのだが、不破大輔や渡部真一が演奏しているのはミュージシャンだけではない、楽器を弾くことだけが音楽じゃないんだ、皆も参加してくれ、といったことを何度か口にしていたように、先のPANTAも含めてこの空間、この時間に起こったこと全てが音楽だと言えるようなライヴが繰り広げられていったのだ。曲の切れ目がなく、歌が終わりビッグバンド風の演奏からソロ回しを重ねるうちにいつの間にかハーモニカ・ブルースになっていたり、舞踏に目を奪われたりしているうちにどんどんと時間が過ぎ、全員で突進するような演奏の中「頭脳警察」と大きく書かれたツイン・リバーブが運び込まれた。
再びPANTAがステージに現れ、ディスク・フロントのゼマイティスをかき鳴らすとドラムが続き、あのリフをホーン・セクションが再現した最高にゴージャスな「ふざけるんじゃねえよ」が始まった。続いてドラムとパーカションが総出でイントロを奏でた「マラッカ」。キメのフレーズはホーンが受け持ち、長尺のギターソロが混沌さを倍増させていく。PANTA×渋さの最後は「さようなら世界夫人よ」。PANTAのアコギとトランペットによるイントロに始まり、ソロは片山広明のテナーだ。演奏が終わる前にPANTAは去り、渡部真一がその名を何度も叫ぶ。
PANTAとのセットが終わると不破は寂しそうに「もう寝るしかない」とこぼしていたが、しかしここからが長かった。もうひとりのゲスト、ヒューマンビートボックスの太華は持ち技を出し切ってもなかなかステージから降ろしてもらえない上に去り際には紹介もされず、不破は煙草を吸うし何人かの出演者も出たり入ったり酒頼んだりと自由過ぎ。ようやくいつもの如く「本多工務店のテーマ」で盛り上がって大団円と思いきや、他のメンバーが退場したにも関わらずステージにひとり居座った石渡明廣がドラムを叩き始め、戻ってきた不破がベースを少し弾いたものの自分もドラムセットに座り、演奏に加わるメンバーも居れば片付けを始める連中も居るし、さっさと帰る客フロアに残る客と本当に自由。冗長な箇所も含めて、全てが音楽、全てがライヴ、そんな4時間弱だった。
2018年1月8日 渋谷・TSUTAYA O-EAST
新春恒例 LIVE 2018 O-EAST
渋さ知らズ大オーケストラ
ゲスト : PANTA / 太華
【渋さ知らズ大オーケストラ】
北陽一郎(tp) 石渡岬(tp) 辰巳小五郎(tp) 松本卓也(ss,ts) 立花秀輝(as) 川口義之(as) 登敬三(ts) 片山広明(ts) 鬼頭哲(bs) RIO(bs) 高橋保行(tb) 中根信博(tb) 菱沼尚生(tuba) 石渡明廣(g) 加藤一平(g) ファンテイル(g) ヒゴヒロシ(b) 小林真理子(b) 太田惠資(vl) 山口コーイチ(key) エマーソン北村(key) 松村孝之(per) 関根真理(vo.per) 大西英雄(per) 山本直樹(ds) 磯部潤(ds) 藤掛正隆(ds) 渡部真一(vo.act) 玉井夕海(vo) ペロ(dance) さやか(dance) ボス(act) 宝子(舞踏) 東洋(舞踏) 若林淳(舞踏) すがこ(お調子組合) あすか(お調子組合) 展子(お調子組合) 不破大輔(ダンドリスト) 他
【ゲスト】
PANTA(g,vo) 太華(ヒューマンビートボックス)
【スタッフ】
田中篤史(音響) 石川葉月(音響) 鈴木章夫(照明) 河内哲二郎(美術) トックン(美術) 横沢紅太郎(美術,映像) 藤中悦子(物販) 村田善一(写真) 梅田航(収録) 逵紀寿(収録) 川原純(制作) 中谷潤(制作) 杉澤響平(制作) 馬渕仁彦(制作) 他
<PANTA>
Bonsoir John-John(France Gall/日本語詞:PANTA)
メール・ド・グラス ~ エーデルワイス
ナハト ムジーク(with石渡明廣)
七月のムスターファ(with石渡明廣)
<PANTA+渋さ知らズ大オーケストラ>
ふざけるんじゃねえよ
マラッカ
さようなら世界夫人よ