本2019年、結成50周年を迎え、ロックの歴史から飛び出してきた伝説のバンド、頭脳警察。PANTA(Vo、G)とTOSHI(Perc)が1969年、19歳(二人とも1950年生まれ。現在は69歳である)の時に出会い、幾多の変遷を経て、50年の記念すべき年に澤竜次(G)、宮田岳(B)という黒猫チェルシーのメンバー、そして京都の老舗バンド、騒音寺のメンバーだった樋口素之助(Dr)という新しい仲間とともに蘇った。新メンバーはいずれも1990年に頭脳警察が1年間期間限定で復活した年の前後(素之助は1989年、澤は1990年、宮田は1991年)に生まれている。1991年に活動を休止後、2007年に再々結成をしているが、本格的な再始動は、2019年といっていいだろう。この9月に結成50周年記念作品『乱破』(“乱破”は“忍者”のこと。PANTAは甲賀忍者の末裔らしい)をリリース、日本全国のイベントやフェス、ライブなどで、暴れまくっている。
「フジロック」ではなく、「夕刊フジロック」。一筋縄ではいかない、ひねくれものの彼ららしい素敵な“暴挙”(いや、“快挙”!)だろう。サラリーマンの“通勤のお供”(いまはスマホが全盛か!?)「夕刊フジ」が主催する「夕刊フジロック」はこれまで芳野藤丸、ミッキー吉野などのレジェンド・アーティストのアニバーサリー・コンサートを開催し、その度に話題を呼んでいる。今回は頭脳警察である。彼らとともに岳竜、玲里、戸川純Avecおおくぼけいという個性的なメンバーとの共演。頭脳警察のメンバーである宮田と澤のユニット、岳竜以外は関係なさそうな組み合わせは、単なる偶然ではなく、ある種、必然だった。
11月25日(月)、東京・渋谷のライブハウス「due MUSIC EXCHANGE」で開催された『夕刊フジロックPLUS2 頭脳警察「Right Left the Light~ど真ん中から叫んでやる~」結成50周年3rd』。会場は立錐の余地もない、満員御礼状態。中高年ばかりではなく、若者も多い。男性だけではなく、女性もたくさん詰めかける。
午後7時30分に始まったこの日のコンサートは、岳竜、玲里、戸川純 Avec おおくぼけいの熱演の後、フランク・ザッパ&ザ・マザースの「Who Are The Brain Police」とともに「三里塚幻夜祭」出演時の若き日の頭脳警察の映像が流れ、8時30分にPANTAとTOSHIがステージに上がり、いきなり「世界革命戦争宣言」を“アジテート”する。
そして宮田、澤、基之助、そして『乱破』にも参加したサポートメンバーのアーバンギャルドのおおくぼが加わる。彼らが奏でる轟音の中、「赤軍兵士の詩」を演奏。さらに「銃をとれ」と叫ぶ。いきなり“革命三部作”といわれる発売禁止、放送禁止級の危険な歌が放たれた。会場は右も左も関係なく(内ゲバ禁止令が敷かれている!?)、興奮の坩堝と化す。「夕刊フジロック」の企画者がコンサート・タイトルを当初、“革命”にしようとしたのも頷ける。いまという時代にこれらの曲を聞ける最低限の自由がここにはある。
政治的で過激(ポリティカル&ラジカル)という頭脳警察のパブリックイメージを代表する楽曲群である。しかし、頭脳警察の最初の解散(長い目でみれば“解散”より、“活動休止”が相応しいだろう)は、その肥大化したイメージに囚われ、頭脳警察を演じることに息苦しさを感じたゆえのこと。しかし、本来、頭脳警察は一面的でなく、多面体である。いろんな顔を持っているのだ。
そんなことを裏付けるように“革命三部作”以降、様々な顔を見せていく。頭脳警察のステージに怪しい装束の集団が現れ、舞い踊り、叫び、歌う。『乱破』に収録された「搖れる大地Ⅰ」、「搖れる大地Ⅱ」が披露される。元々、同曲は劇団「水族館劇場」の舞台「Nachleben 搖れる大地」のために書かれたもの。「水族館劇場」の団員が参加したステージは視覚的で演劇的である。シアトリカルロックとでもいうべきもの。その“コラボレーション”はいい意味で「天井桟敷」(寺山修司)や「状況劇場」(唐十郎)など、激動と騒乱の季節のアングラ演劇の匂いを醸す。いま、こんな空気を纏うことをできるのは頭脳警察ぐらいだろう。
ここまでほとんどMCを挟んでいない。観客を頭脳警察の世界に引き込む。「紫のプリズムにのって」、「乱破者」、「戦士のバラード」、「ダダリオを探せ」と、『乱破』に収録された新生頭脳警察の新曲達を畳みかける。「紫のプリズムにのって」は、その叙情的で耽美な調べと歌は頭脳警察の真骨頂でもある。おおくぼのキーボードは深淵さと幽玄さ加える。かの時代のプログレッブ・ロックを彷彿もさせる。「乱破者」は新作にも参加した石垣秀基の尺八が唸りを上げる。「戦士のバラード」は“疲れたら 休めばいい”、“倒れたら 夢をみればいい”という印象的なフレーズがある。諦念ではないが、70歳を前にし、戦い続ける彼らだからこそ、歌える歌ではないだろうか。「ダダリオを探せ」では一転、溌溂として、激しい音を一気呵成に繰り出す。しっかり音と向き合っていなければ聞くものが気圧されてしまう。波状攻撃ともいえる音塊は、このメンバーだから成しえたものではないだろうか。
そんな勢いのまま、「麗しのジェットダンサー」から「メカニカルドールの悲劇」、「プリマドンナ」、「やけっぱちのルンバ」へという“ロックンロール・メドレー”が繰り広げられる。その軽快な弾け具合、言語道断の傍若無人さは“悪たれ小僧”そのもの。「やけっぱちのルンバ」では女性サックス奏者、ASKAが加わり、華やかさも増していく。
そしてPANTAが17歳の時、ヘルマン・ヘッセの詩に曲をつけ、長年、某JASRACに認知されなかった頭脳警察のバラードの名曲にして、日本のロック史に残る名曲「さようなら世界夫人よ」が歌われる。政治的で過激という頭脳警察とは対極になる文学的で叙情的(ポエトリカル&リリカル)という頭脳警察を代表するナンバーである。『乱破』に収録された同曲では吉田美奈子がコーラス(オリジナルでは、彼女はフルートを吹いている)をつけていたが、ここでは玲里がコーラスとして加わる。彼女は山下達郎や金子マリなどとの活動で知られるキーボード奏者、難波弘之の愛娘で、2016年9月に難波が六本木のEX THEATERで行った4時間30分という長時間ライブ『難波弘之 鍵盤生活40周年記念ライブ』をPANTAが見に行き、見染めた以来の仲である。難波そのものもかつて、ファンの間で不買運動が起きたPANTAのスウィート路線の問題作『KISS』のレコーディングに参加している。玲里はこの日のステージで難波とともに、その『KISS』 から「真夜中のパーキングロット」も披露している。
「さようなら世界夫人よ」は壮大なフィナーレに相応しく、観客の心と身体の深いところへ届いていく。その歌の世界に呑み込まれる。同曲を歌い終えると、頭脳警察はステージから消える。当然の如く、アンコールを求める歓声と嬌声と拍手と足踏みが鳴りやまない。
頭脳警察が再びステージに現れ、歌いだしたのは意外な曲だった。パッヘルベルのカノンをモチーフにした戸川純の名曲「蛹化の女」である。同曲を高速、かつ、爆音で演奏し、歌う。同曲のパンクバージョン「パンク蛹化の女」だ。同曲の後半にはPANTAに呼び出され、戸川純も加わる。PANTAと戸川純という意外な共演が行われる。70年代ロックの革命児・頭脳警察と、80年代ニューウェイブの歌姫・戸川純――両者には音楽的な接点や人脈的な交流などはなかったが、実は戸川は学生運動が盛んな新宿で生まれ育ち、当時は頭脳警察の名前しか知らなかったが、3億円事件のジャケット(発売禁止になった頭脳警察のファースト・アルバム)も相まって一番かっこいいバンド名だと思っていたそうだ。初めて出会ったのは数年前らしいが、その時、同じ大学の先輩・後輩であることが判明したという。両者をおおくぼけいがサポートしているという繋がりもあった。それにしても頭脳警察と戸川純の「パンク蛹化の女」の破壊力は凄まじい。凡弱のパンク・バンドが束になって、かかってきても敵ではないだろう。考えてみれば頭脳警察は元祖パンクである。そんなことを改めて、その音と歌が実証する。
同曲に続き、戸川純に加え、玲里、石垣、ASKと、この日の出演者がステージに上がる。「コミック雑誌なんかいらない」が演奏される。“頭脳警察オーケストラ”でもいうべき、重層的な音が連なり、美しいハーモニーを奏でる。その華やかさと艶やかさは大団円に相応しい。
頭脳警察のライブは1時間ほどだったが、“50周年記念版頭脳警察”の可能性を感じないわけにはいかない。まずは5人組バンドとしての確固たる音を作りながら、刺激的な共演や競演を通して、その音を重ねていく。頭脳警察というバンドがより多彩に多面的に広がっていくのだ。
2019年の50周年は既に終盤に差し掛かっているという。しかし、さらなる盛り上がりを見せることは必至。この頭脳警察がいつまで活動を続けるかわからない。突然、「最終指令“自爆せよ”」なんていう指令がでることもある。しかし、集大成などというと早計かもしれないが、これまでの様々な実験期や試用期間、発表時期を過ぎ、バンドとして、さらなる高みへ至る、その途上にいることは間違いない。まだまだ、“伸びしろ”がある。さらなる頂点を目指していきそうだ。2020年も”51周年記念版頭脳警察”として暴れまくって欲しい。忌々しくも喧しい“2020”をぶっ飛ばす。こんな時だからこそ、私達には頭脳警察が必要である。右も左もない、ど真ん中、問答無用の一点突破。そんな行いが“乱破”には相応しいのではないだろうか。
11月25日(月) 東京・渋谷「duo MUSIC EXCHANGE」『夕刊フジロックPLUS2 頭脳警察「Right Left the Light~ど真ん中から叫んでやる~」結成50周年3rd』セットリスト
1.世界革命戦争宣言
2.赤軍兵士の詩
3.銃をとれ
4.揺れる大地1 ゲスト水族館劇場
5.揺れる大地2 ゲスト水族館劇場
6.紫のプリズムにのって
MC
7.乱破者 ゲスト石垣秀基・尺八
8.戦士のバラード
9.ダダリオを探せ
10.ロックンロール・メドレー(「麗しのジェットダンサー」~「メカニカルドールの悲劇」~「プリマドンナ」~「やけっぱちのルンバ」)ゲストASKA・SAX
11.さようなら世界夫人よ ゲスト玲里
EC
12.パンク蛹化の女 with戸川純
13.コミック雑誌なんかいらない
文/市川清師 写真/SHIGGY吉田 JOHNNEY寺坂