根岸線の山手駅から歩くと25分ほど、商店街を通り抜け、ポツリポツリと現れるいかにも横浜らしい中華料理店を何軒かやり過ごすと50年以上の歴史を刻むライヴバー、「ゴールデンカップ」が現れる。ザ・ゴールデン・カップスというバンド名の由来となった店だ。
およそ2週間で10本、ソロ~頭脳警察~響(PANTA+TAKUMI)と編成を変えながら「PANTA’X WORLD 2017 FALL TOUR」を名古屋 ell.SIZE で終えたPANTAがその足で向かったのがこのゴールデンカップ。本牧アートプロジェクトの一環として企画されたライヴが行われたのだ。
「GOLDENCUP SINCE 1964 YOKOHAMA HONMOKU」というネオンサインに迎えられながら店内に足を踏み入れると、コの字型のカウンターの奥にステージとソファ席、椅子が並べられたフロアが見える。店内にもアメリカンテイストのネオンが飾られ、壁には60年代と思しき店内の写真が掲げられている。否が応にも歴史を感じさせる客席がすっかり埋まったほぼ定刻、リンダ・ロンシュタットの「イン・マイ・ルーム」が流れる中、PANTAと菊池琢己がステージに向かったのだ。
1曲目はPANTAの激しいギターストロークで始まった「瓦斯」。声が掠れ気味になるなど、旅の疲れを感じさせるところも無いわけではないがすぐに「世界最小のロックバンド」響の本領が発揮され、発売30周年を迎えたアルバム『クリスタルナハト』のナンバーへと雪崩れこんでいく。「メール・ド・グラス」は歌詞に登場する高山植物の名がタイトルとなっている映画『サウンド・オブ・ミュージック』の中の1曲、「エーデルワイス」を後半に配した最近のヴァージョンだ。PANTAならではの感情の迸るようなヴォーカルが聴けた「奴と俺とおまえと」、フル・ヴァージョンの「裸にされた街」で1部は終了。
2部は今年の「Eat,Meat,Heat,Beat Tour」から歌われているバート・バカラック作「メキシカン・ディヴォース」でしっとりとスタートしたものの、続く「Audi80」で再びギアが上げられた。「五月雨にスラー」で再びPANTAが爆発し、その後は一気呵成にエンディングまで突っ走ったのである。「マラッカ」では客席が思い思いに手拍子、足拍子、指笛等々で盛り上がり、本編最後はセリフまで再現された「Again & Again」。
アンコールは「君かげらふも」から。「奴と俺とおまえと」同様に去りゆく人への眼差しを感じさせる選曲だ。「アメリカよ~時代はサーカスの象にのって」の朗読ではPANTAの言葉に迫力が増していき、客席も張り詰めた雰囲気に変わっていく。そして最後は「さようなら世界夫人よ」。這いつくばっても生きる、という強い意志を伸びやかな歌声に乗せたこの曲で大団円。案の定終演予定時間を超えてしまってはいたが、ツアーの成果を存分に味わえた凱旋ライヴとなったのである。
2017年12月1日 本牧・ゴールデンカップ
PANTA Live with TAKUMI
Honmoku Art Project 2017 本牧の夜
出演:PANTA(vo, g) / 菊池琢己(g, cho)
<1部>
1. 瓦斯
2. メール・ド・グラス
~Edelweiss(Rodgers & Hammerstein)
3. 夜と霧の中で
4. ナハト ムジーク
5. 奴と俺とおまえと
6. 裸にされた街
<2部>
7. Mexican Divorce (Burt Bacharach)
8. Audi80
9. 五月雨にスラー
10. 氷川丸
11. 七月のムスターファ
12. マラッカ
13. Again & Again
<アンコール>
14. 君かげらふも
15. アメリカよ(寺山修司)
~時代はサーカスの象にのって
16. さようなら世界夫人よ