1990年1月27日、JAGATARAの江戸アケミが死んだ。亡くなる数日前、アケミはケーブルテレビの収録をしているPANTAを訪ねた。ところが収録が伸びてしまい、アケミも次のスケジュールがあったため、2人は会えなかった(アケミが訪ねた理由はわからない)。
そして、1991年1月26日から27日にかけて「江戸アケミ一周忌ライブ 西暦2000年分の反省」が、法政大学市ヶ谷キャンパスの学生会館大ホ-ルで催される。頭脳警察もPANTAとTOSHIの編成で出演した。セットリストは次の8曲。
1. お前と別れたい
2. ひとつぶの種になって
3. 時々吠えることがある
4. スホーイの後に
5. People
6. 月蝕と日蝕の谷間で
7. 万物流転
アンコール
8. 詩人の末路
サウンドに類似性がないので、アケミと頭脳警察の組み合わせにピンと来ない人は多いかもしれない。
ところがアケミは、「頭脳警察とか聴いて音楽をやりはじめた」と語っていて、実際に「三里塚 幻野祭」のステージを観て影響を受けたという。アケミにとって頭脳警察は、音楽性というよりも政治的パッションのルーツなのだろう。
虚無に埋没しながらも、かすかな希望に手を伸ばそうとする。JAGATARAの楽曲「タンゴ」と「さようなら世界夫人よ」から、そうした映像が浮かぶ。私には2つの楽曲から共通した風景が広がるのだ。一度でいいから、アケミが歌いJAGATARAが演奏する「世界夫人」を体験してみたかった。そんなことを思ったりもする。
ところで、アケミの一周忌ライブが行われた法政大学の学生会館では、1977年にPANTA&HAL、TOSHI BAND、友川かずきという組み合わせのライブが行われている。このように企画性の高いコンサートをはじめ、映画などのイカしたイベントが数え切らないほど実施された解放区。それが学館だった。
学館はいつも埃っぽくて乾いていた。ライブハウスにありがちなじっとりした空気ではない、あの乾きかげんが好きだった。
そんな学館も2004年に解体される。光陰矢のごとし。すべては、今は昔。リアルタイムでJAGATARAを体験した人間なんて、近い将来、あっという間に灰になるのだ。
70年代の頭脳警察、90年代の頭脳警察、21世紀になってからの頭脳警察。そして50周年を迎える頭脳警察。本当にPANTAとTOSHIは、よく生き延びたと思う。しかし、いつかは灰になる。
PANTAとTOSHIが煙になって空に消えても、この世界に虚無があるかぎり、どこかでだれかが「さようなら世界夫人よ」を歌うだろう、きっと。
そして蛇足。現在、「タンゴ」と「世界夫人」をつなぐことができるシンガーは、城南海以外にいない。私はそう思っている。城南海を知らない方は、ぜひ、YouTubeで「城南海 夜空ノムコウ」を検索してみてください。
(フリーライター:須田諭一)
PHOTO 菊池茂夫