PANTAファンクラブ会報紙Vol.48(1991年10月31日号)で、PANTAがアルバム『歓喜の歌』について語っている。少々長くなるが抜粋してみよう。(「P:」はPANTA「S:」はスタッフ「F:」はインタビューアー)
F:『歓喜の歌』のアルバムについてなんですけど、今回の頭脳警察のアルバムは最初から2枚と決めていたのですか?
P:当初は1枚。それからだね。(『歓喜の歌』は、2月)27日までに(レコーディングを)終えて、27日にめでたく解散というのが良かったんだけど、予定がグングンずれ込んで、27日までにできたのが3曲(笑)。
F:ジャケットの写真が凝っていますが誰のアイディアですか。
P:坂口(賢 Art Director)。いやTOSHIかな、オレかなぁ、わかんないなぁ。どっちにしてもいろんなアイディアがでたんだけど。
F:イメージとしては、ハーレムとか女をはべらかしてとか……。
P:最後の方はそうだね。だからとにかく“9”という数字がキーワードになってて、それでベートーベンの「第九」にかけて……だから女の数も限定したというか、何人になってる? (ジャケットの写真を見て) 1、2、3……9人だよね。
F:写真撮影にはどのくらい時間、かかったんですか。
P:まる1日。スッポンポン(爆笑)。あーなっちゃうと、服着ている方が恥ずかしくなっちゃう。裏ジャケの写真の時、この女が刺激するんだよ。髪の毛でワサワサとか、フクロのところをコチョコチョとか(笑)、「バカヤロー、もよおしてくるじゃねぇか」って半分なりかけたけど、一生懸命考えないようにして(爆笑)。
S:写真に写っているテーブルにあるワインとか、みんなで飲んでハイになっちゃって。
P:好きなようにやってたなぁ。最後はグジョグジョ。
S:本当は鮮明な写真なんだけど、レコード会社の意見で、コンピューター処理してこんな感じになった。
P:だから(できあがった写真見て)みんな怒ってたんだよ。ホントきれいだったんだから。……はからずしもまた(ムーン)ライダースとシンクロしたなぁ。『最後の晩餐』。
F:歌詞カードの中程にある写真で星条旗が消してあるのは?
P:星条旗、ダメっつうことで消したんだけど。
S:レコード会社の方でマズイっていうことで……。で、消すんだったら、わざと消した感じにしようと……。
F:かえって意味が出てきませんか?
P:いっぱつで星条旗ってわかるよね。
【中略】
F:アルバム『歓喜の歌』の各曲の歌詞ですが、かなりリキが入っていると思うのですが。
P:ありがとうございます(笑)。リキ入ってたよ。死にそうだったもの。ワープロをスタジオに持ち込んで、その場で詞を直して……。
F:テーマはありますか。
P:とりあえず、頭脳警察9枚目ということで。……全部テーマに引っ掛けてる。「(最終指令)自爆せよ」は4枚目に入れられなかったんだ……。あの……「飛翔」はねぇ、実は渋谷じゃなくて、武道館で終わりたかったんだ、オレ。武道館、東京ドームはダサイというふうに思ってたけど……なぜ武道館かっていうと、あの旗の下で終わりたかったんだ。……「セフィロト(の樹)」は次に繋がっていくでしょう。「ヒ」に繋がっていくと思うんだけど。
F:次のアルバムに?
P:いや、次じゃない。次のアルバムは、スケベだよ。じゃ今までスケベじゃなかったかというと、そういうことじゃないけど(笑)。「オリオン(頌歌)」と「自爆せよ」は、旧頭脳警察で演ってた曲だよね。「焔の色」は、まったくベートーベンに引掛けた歌なんだよね。ベートーベンの8番目の曲が「焔の色」っていうんだよね。それまでの過去の(頭脳警察の)8枚に引掛けた歌だから、過去の歌のフレーズとか出てくるよね。最初の“笑ってくれ 喜劇はもう終わったんだと”っていうのは、ベートーベンが死んだ時の言葉だし、ダサイと思われる“教会の鐘の音”なんて出てくるけど……これはベートーベンが森を散歩するのが好きで、ある日いつものように散策していると、いつも聞こえるはずの教会の鐘が聞こえない、あれって、どうしたんだろう、あわてて家に帰って自分の耳が聞こえなくなっていることに気がついて、あわてて弟に自分のおののきを手紙に託したのね。そういうことがあったから教会じゃなきゃいけなかったんだ。ディレクターからさ、「これ教会じゃない方がいいんじゃない」って指摘されたんだけど、「いや、これは教会じゃないとまずいんだよ、オレもダサイと思うけどさ」って(笑)……不思議だよね、モーツァルト200年、ランボー100年、ジョン・レノン10年、ボブ・マーレー10年、すごいね。
F:ところで、時期的に湾岸戦争と絡んでいますよね、ジャケットの写真を見てもそんなイメージがあるんですけど。
P:湾岸でこんな旧式の爆弾使っているか(笑)。今どきキノコ雲でもないでしょ(笑)。……でもあるね、直接的ではないけど、随所に出ているでしょう。
F:音楽活動における、いわゆる第2章の引き金になるのは……。
P:「セフィロト」と思ってもらえれば。
F:ユダヤというものに関心を持たれたのはいつ頃からですか?
P:だってユダヤは小学生の頃から……。興味を持つというのではなくて、ユダヤ民族ってのがあるわけでしょ。オレ、あんまりユダヤにこだわっているわけじゃないんだよね。もっと前にこだわっているんだよね。ユダヤより前にね。
F:なんかテーマが難しくなってリスナーと遊離していく気がするんですけど……。
P:いや、遊離どころか密着し過ぎているんだよ。
70年代のラストナンバー「あばよ東京」のイントロで奏でられるPANTAのギターのハーモニックスが、ベートーヴェンの「運命」の冒頭を想起することから、私には90年代のラストナンバー「歓喜の歌」と「あばよ東京」が、まるでメビウスの帯のようにつながるのだ。
70年代頭脳警察の最後のベーシスト・石井正夫は、「PANTAの生きざま」という言葉で“頭脳警察”を表現している。同じくファンクラブの会報紙Vol.47(1991年6月15日号)のインタビューをみてみよう。(「I:」は石井正夫「F:」はインタビューアー)
F:頭脳警察再活動という予感はありましたか?
I:いや、全くない。
F:再活動を聞いた時のまさおさんの気持ちはどうでしたか?
I:頭脳警察演るって知らないで、TOSHIに連絡したの。「頭脳警察を演ることになったからさ」って、え~! と思ったよね。「PANTAと演るのか」って聞いたら「そうだ」って……あ~これは見に行きたいなというを思ったよね。見にいかなくちゃ。
F:いろいろな感情があったと思うんですけど。
I:PANTAもTOSHIも、何故演る気になったのかなって。
F:一種の後退だと私は思ったんですが。
I:そう思うだろうね。僕がクリスタルナハトを聞いた時に思ったのは……クリスタルナハトも、屋根の上の猫も、走れ熱いならも……途中知らないのもあるけど……イコール頭脳警察だなと。全部PANTAの生きざまにつながっているっていうかさ、どれをとっても、PANTAイコール……僕はそういうふうに感じたな。
F:90年6月15日、当日はどうでしたか?
I:僕は鳥肌が立ったね、僕はね。時代は戻れないけど、その時に感じたものと感じていきたい部分を、今演ってくれているっていうのかな……全部イコールだったよね。17、8の時、野音で頭脳警察に会った時と同じ……同じとは言えないけれど……熱いものが感じられたよね。……PANTAもTOSHIもやろうとしている永遠のテーマっていうのかな。
ちなみに「あばよ東京」は、レコーディングの前日に徹夜で書いたという(厳密にいうと、完全にできあがっていない状態でレコーディングに突入)。レコーディングはメンバーに曲を披露することもなく、リハーサルをすることもなく、スタジオライブのような録音方法をとり、PANTAはイントロのハーモニックスをいきなり鳴らした。PANTAのギターに引っ張られて、メンバーはそのままエンディングまで突っ走り、トランス状態に突入する。まさにメビウスの帯に閉じ込められた方向性エネルギーが爆発するかのように。テイク2か3で、ディレクターが「もうこれ以上はない」と判断して終了する。
ところで、石井正夫はTOSHIが頭脳警察を脱退している期間、PANTAとTOSHIの両方のスタッフを務めながら、TOSHIに復帰を辛抱強く説得し続けた。その結果、TOSHIは「正夫ちゃんがそう言うなら、俺、戻るよ。頭脳警察、やるかな」とつぶやき、帰還する。石井の努力と愛情がなければ、70年代頭脳警察はもちろん、90年代頭脳警察も21世紀頭脳警察も違うものになっていたかもしれない。
アルバム『歓喜の歌』といえば、「セフィロトの樹」の歌詞が気になったリスナーは多いだろう。神話や旧約聖書に出てくる“セフィロトの樹”に関しては、私がここで知ったかぶってもしょうがないので、興味のある方はご自身で調べてみてください。私の知るところでは、ユダヤ教の神秘思想を体系化したものをカバラといい、このカバラを図にしたものがセフィロトの樹である。付け加えれば、薔薇十字団の創立者とされるクリスチャン・ローゼンクロイツ(Christian Rosenkreutz 1378-1484年)が、カバラをフリーメイソンに伝えたといわれている。
PANTAはクリスチャン・ローゼンクロイツからRCサクセションというバンド名に引っかかりを覚える。つまり「クリスチャン・ローゼンクロイツが、フリーメイソンにカバラを伝えた」⟹「CRが伝えた」⟹「RC SUCCESSION」⟹「クリスチャン・ローゼンクロイツを継承するバンド」というわけだ。しかもRCサクセションの楽曲「ぼくの好きな先生」が、カバラ伝承の儀式をイメージさせるというのだ。
1993年、12月31日から1月1日にかけてCLUB CITTA’川崎で「日本をすくえ! ~くたばれ紅白歌合戦~」というイベントが行われた。このイベントにPANTAも忌野清志郎も出演する。たまたまトイレでいっしょになった清志郎にPANTAは、ローゼンクロイツのカバラ伝承の儀式と「ぼくの好きな先生」の雰囲気が似ていると話し、「RCサクセションというバンド名には、ローゼンクロイツ継承、カバラ伝承という意味があるんじゃないの?」と訊く。清志郎は驚いて「へえ、すごい! そんな話があるんだ。それは知らなかった」と応えたらしい。
「日本をすくえ!」にはPANTA&菊池琢己で出演し、ハウスバンドを務めた吉田建バンドをバックに「PEOPLE」「万物流転」「屋根の上の猫」「コミック雑誌なんか要らない」の4曲を歌う。後日、吉田建バンドでドラムを担当した村上秀一の演奏を「いやあ、ポンタのドラム、気持ち良かったよ。『万物流転』なんて絶妙なところでおかずを入れてくるもんね」とPANTAは語った。
蛇足です。1990年10月28日、日本大学文理学部講堂で「ネルソン・マンデラ来日歓迎ライブ VIVA FREEDOM」というイベントが行われ、頭脳警察も出演しました。セットリストは「万物流転」「Quiet Riot」「悪たれ小僧」の3曲。ここでは「R★E★D」はやりませんでしたが、その後、頭脳警察で「R★E★D」をやるたびに、私はこのイベントを思い出します。
なお、「あくたれ小僧」にはTHE FOOLSのメンバーが参加しました(MCで頭脳FOOLSと紹介)。伊藤耕のヴォーカルも川田良のギターも超カッコ良くて最高でした。っていうか、頭脳FOOLSが90年代頭脳警察でもっともカッコ良かったかもしれません(そんな耕も良も旅立ってしまいました)。
このイベントにはシーナ&ロケッツも出演していました。バックステージでシーナが「ウエルカム! マンデラ」と叫びながらネルソン・マンデラに抱きつき、SPがビックリしていたという話もありました(そんなシーナも旅立ってしまいました)。
もちろんネルソン・マンデラも、いまはもういません。50年も活動している頭脳警察を追っていると、「やっぱりいろいろなことがあったなあ。逝った人も多いなあ」と思います。天の上にもこっちにもイカしたミュージシャンがたくさんいて、だれがどこにいるのかわからなくなってしまいます。一神教は行きづまってカオス状態の地球ですが、これからもPANTAとTOSHIには、ぜひマイペースで活動してもらいたいと思います。そして、生きざまも死にざまも流転も見せつけてほしいなどと思うのです。
(フリーライター:須田諭一)