新大久保にある海城学園という厳格極まりない、そして女っ気もまったくない男子校に入学した。
在校当時は入試競争率が38倍という名門受験校ということだったのだが、中学からエレベーターで行ってるオレにはまったく関係のないことであった。
確か中学の時だったと思うが、学校のイヴェントとして、映画観賞というのがあって、コンクリートの校庭に集合し、列を組んで新宿のミラノ座まで歩いて行った記憶がある。そこで観たものは、あのチャールトン・ヘストン主演の映画史上に燦然と輝く“ベン・ハー”であった。
これは衝撃的だった。ジュダ・ベン・ハーとイエス・キリストの数奇な運命を描いた思いきりキリスト礼賛の映画であったのだが、ミラノ座の大画面で観る大スペクタクル映画は途中休憩を挟んでの四時間弱という長さながら、まばたきさえもどかしく感じられたくらいに素晴らしい体験であった。
それまで子供の頃から映画はいっぱい観ていたのだが、ほとんど初体験と言っていいハリウッド映画との出会いをセットしてくれた海城には、感謝の気持ちでいっぱいです。
そんなこんなで、オレの遊び場はほとんどが新宿でした。
男子校でもあり、路上ナンパは日常の風景として、もっぱら三丁目というか三光町のあたりにたむろしてました。
いまで言えばクラブということになるんだろうけど、当時、新宿には「The Other」とか「Apple」とかに代表される有名なディスコがいっぱいあって、日が暮れるとあちこちからハンパじゃない数の若者達(笑)が集まってくるのでした。
オレは「螺旋階段」というとっても小さなお店が行きつけで、地下に通じる階段を下りると下北沢の「シェルター」程度の広さのダンスフロアがあり、真ん中には・・・あっ違う、地下に行くにはその真ん中にあるスパイラル(螺旋階段)を降りて行くんだった。ほとんどいつも暗闇で、チークタイムになるとさらにまた真っ暗になるので、不純異性交遊の場としてはうってつけでもあった。
隅のベンチ?に座りに行くと、知り合いが女を膝に乗せ、彼女のセーターの裾から手を差し込んだまま、オレと挨拶を交わし、しばし轟音の中での談笑となる。
かかっている曲はほとんどがモータウンのナンバーであり、だからこそオレはこの螺旋階段が行きつけだったのだ。
モータウン・レコードというのはアメリカはミシガン州デトロイトにあるレコード会社で、車産業で有名なデトロイトということで、モータータウン→モータウンになったのはよく知られた話。
で、そのモータウンにはオレの大々好きなダイアナ・ロス&シュープリームスやテンプテーションズ、スモーキー・ロビンソン&ミラクルズ、リトル・スティービー・ワンダーにメリー・ウェルズ、あれ、何か大事なのを忘れてる気がする・・・とにかく“恋のキラキラ星”のごとくにR&Bアーティストが在籍しており、オレにとっては不純異性交遊もいいけど真っ暗闇の宝箱といった螺旋階段だったのだ。
ある夜、年上の女二人と知り合うことがあって、話が盛り上がったのかどうか知らないが、場所を変えて三人で、とある地下の薄暗い部屋に行った記憶がある。
お姉さん二人に挟まれるようにソファーに座ったオレの耳には、ジュークボックスから流れてくるシュープリームスの♪“ひとりぼっちのシンフォニー”・・・・
そうか、ただナンパされただけだったのかといま書いていて気づくオレであった。
そんなこんなでシュープリームスの大好きなこの歌を聴くたびに、甘く酸っぱく切なくときめく想いが脳裏をよぎっていくのです。